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復讐という愛情表現 -『ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだ』

備忘録第16弾。

今回紹介していくのは『ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだ』という作品。
先に伝えておくと、この小説は決して万人受けはしない内容を含んでいる。劇物のような危険な作品です。人に勧めるのが憚られる、人から隠れて読むような作品です。


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さて、この物語は『いじめられっ子の復讐譚』だ。こういうジャンルの作品はいくらかなろうにも存在するのだが、この作品はその中でもブッチギリでいかれた内容となっている。とにかく主人公の星屑がゲスい。同種の外道である第14弾で紹介した『ウロボロス』の主人公トゥリウスと違って、星屑はただだだ相手を苦しめるためにやっているの分こちらのほうが真のゲス野郎と言える。

しかし、星屑の持つ『強すぎる憎悪』には何故だか魅力を感じずにはいられない。むしろ清々しいまである。彼はその気持ちを『愛情表現』と形容している。こういう倒錯した感情の中毒性は恐ろしい。こういう人が持つ醜い思想に触れているうちに歪んだ感情が浮き彫りになってくるのだ。


しかしこの作品の魅力はそれだけではない。彼の復讐譚のプロットもこれがまた上手く作られているのだ。行き当たりばったりではなく、明らかに結末から逆算式で描かれている。その過程も結構ユニークで興味深く、また手段を選ばない姿勢も清々しいものだ。特に仲間を得るための手段がまた卑怯で狡猾で、最高。

彼が仲間にしようとするのは決まって年下の少女であるというところも実にそれらしい。彼女らをありとあらゆる手で堕としていく様は愉悦と背徳を感じずにはいられない。ロリ系ヒロインを手籠めにして悦に浸る星屑。こんな主人公はなろうにしか存在しないに違いない。だが彼に惹かれてしまう人も割といるのではなかろうか。

最後に仲根多鎖氏のレビューから少し引用を。

一方で、自分の所有物(モノ)には優しく、他人からの恩も怨も忘れない辺りは結構人間的ではある。

<http://novelcom.syosetu.com/novelreview/list/ncode/518718/>

自分の仲間にはどこまでも大切にするというのもこういう主人公の典型パターンですよね。とにかく制御不能な両極端な感情を持ち合わせている。


ある意味「なろう」らしい作品であるのだろうか。でもまあ、こういう尖った作品は増えてほしいと思う。読む分には面白いのだから。

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