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これぞ鬱展開の真髄 -『武士は食わねど高楊枝』


なろう備忘録第27弾。

『武士は食わねど高楊枝』

プロポーズを予定していた日、若者は化け物じみた力を持つ少年に殺された。そして転生を経て、この世界が生前好んでいたファンタジー的世界であることを知る。
――亜人という存在と彼らが持つ『魔法』という技術によって、ファンタジー化を遂げた地球の見聞録。


完結するまで待とうと長い間ブクマ放置していた作品。
さわりだけでもと読み始めてみたら連載分全て読み切ってしまった。


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はい、もうとにかく面白かったです。破天荒なストーリー展開と魅力的な設定群。八百万の神々、クトゥルフ神話フリーメイソンカバラ数秘術など色々なテーマをオリジナリティ溢れる解釈で物語に引用していたり、章ごとに変わる主人公など、アリュージョニスト好きとしてはもう堪らない要素ばかりでした。

文章力も高水準で、作中の雰囲気は割と高尚。ただ個人的には登場人物たちの会話文が妙にキザったらしくて鼻についたり、陳腐なジョークを頻繁に挟んでくるのにかなり辟易とさせられたりするところも。会話文だけが海外小説っぽいのが最初から最後までずっと違和感でした。まあ人それぞれなのかなとは思います。

この作品の特筆すべき点は、鬱展開にあると感じる。2章、特に3章などはかなり主人公に厳しい展開が続く。過度の虐めで精神が崩壊していく描写には目を見張るものがあるし、ヒロインを心の拠り所としてずぶずぶに依存していく主人公というのも珍しい。

そしてきちんと鬱展開の後に上手いことカタルシスを用意してある。またこの主人公は割と人たらしで、様々なヒロインと好き合ったりイチャついたり、離れ離れになったり裏切られたりします。なんというか、飴と鞭が上手いなあと感じたりしました。



(以下個人的な感想)

一番好きなヒロインはやはりローレル。離別シーンの描写が神懸かってました。
彼女を自分の防波堤にしていた主人公と、彼を想い、執着するあまり彼の中にある怪物に呑まれそうになってしまう彼女という構図が切ない。共依存状態のときの彼らの甘々なイチャつきっぷりとの落差になんともいえない感情を味わった。この作者さんの描くヒロイン、可愛すぎるんですよね。恥ずかしがってる姿が一番かわいいというのは紛うことなき真理。

トーリーとしては3章9話の『我が身を滅ぼせ、英雄よ』が圧巻だった。上記したローレルとの離別もここ。またファーガスとの決着だったりベルの真の顔だったりと、これまでの全てが集約された回だった。いやー、4章の完結が待たれますね。


 

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