OWL BOOK

好きな作品を発信していきたいブログ

海外のベストレビューを翻訳する -『灰と幻想のグリムガル』

各アニメのベストレビューを翻訳する。
原文はコチラ。(MyAnimeListより)


スポンサーリンク

?


Apr 1, 2016
Overall Rating: 8
447 people found this review helpful

Review『Hai to Gensou no Grimgar


まずはネタバレ無しの紹介から。

最近の作品はありえないほど短い時間のうちにキャラクターのレベルを0→100にしてしまう傾向がある。これは多くの視聴者が持つ「楽に満足を得たい」という欲求と強く関連している。

しかし、この『灰と幻想のグリムガル』という作品は、プロットに沿い丁寧に一歩ずつキャラクターを築き上げ、キャラクターの自然な成長に重点を置くことによって、それらの本能的欲求を満たすことに挑戦している。キャラクターの成長や、性格を描くために必要な要素を豊富に含んだ物語のプロットは本当に卓越している。この物語の奥深い性質のため、この作品は感情移入しやすい人には特にオススメしたいと思う。

この作品の特徴として、メインキャラクターの多さを挙げることができる。この作品では個人ではなくグループ全体を描くことに重点を置くことが多いが、しかしきちんとバランス良く個人も描いていて、どれかが疎かになってしまうことはない。私達は彼らの日常生活(休日の過ごし方など)を眺めることで、彼らの性格を深く把握することができる。そしてそれぞれのメインキャラクター達がグループの一員としてどのように行動していくのか、というのがこの作品の魅力の一つである

 

灰と幻想のグリムガル 感想

 

序盤ストーリーはゆっくりと進行していくが、話が進むにつれ物語はどんどんと加速していく。初めのうちの煩わしさに耐えることができれば、残りの物語は間違いなく楽しめるであろう。しかし、時に「展開が遅い」という特徴は良い方向に転ぶことがある。確かに不自然に、または無意味に展開が遅くなることは悪いことであるが、この作品においては「丁寧に物語とキャラクターを描く」ために展開の遅れが生じているのであって、制作者はこの点素晴らしい仕事をしているといえる。


また、きっぱりと展開が遅いと断言することもできない。確かにそのように見えることは明白だが、暗黙のうちに描かれている登場人物たちの心理描写や相互関係には奥深いものがあるのだ。大胆なことを言うが、物語の表面だけを見て、これらの暗黙のうちに描かれていることに気づけないから展開が遅いと感じるのではないだろうか。これはこの作品を語る際に非常に大事なことになるので、後で詳しく説明する。

しかし実際には話が進むにつれ展開は急ぎ足になっていく。詳しい説明や十分な時間無しに急いで何かに到達してしまうと、私達はその結果に納得することは難しい。この作品も全12話という制限に支配されていて、やはりこのことはかなりの足枷になる。これらのことを許容できるかどうかで、この作品を楽しめるか否かが決まるだろう。

灰と幻想のグリムガル』という作品の最も重要な特徴は、徹底的なリアリズムにある。登場人物たちは食料や寝床などの確保など、基本的なことも自分で管理しなければならない。彼らはこの異世界の現実に向き合わねばならないのである。また彼らの話し方や交流の仕方なども全て現実的である(風呂を覗いた翌日のパーティの雰囲気は最悪になる)そんな現実主義の一例は、物語の序盤はほとんど事件という事件が起きないことにも見られる。彼らは基本的な生活をしているだけなので、普通ならそんな事件はそうそう起きるはずがないのだ。

 

灰と幻想のグリムガル 感想

 

ひとつ普通でないところがあるとしたら、彼らは生活のために日々モンスターを狩っていることだろう。そしてこの作品の持つもう1つの優れた特徴は、彼らが強すぎる戦闘能力を持たないところにある。彼らは自らの身体能力を少しだけ拡張する能力を得ただけであり、このことはリアルを追求する作風に非常に調和している。

この作品は『slice of life (日常系)』のアニメが好きな人にもおすすめできる。現実的な世界観、等身大な登場人物たちの生活、比較的遅い進行の物語などの要素を持っているので、そのような人々も自然に楽しめることだろうと思う。ここで浮上する一つの問題が、物語冒頭で描かれる戦闘シーンを見て、アクションシーンに期待してこの作品に近づいてしまう人がいることだ。確かに10代の若者たちが異世界に飛ばされる作品においてそのような要素が重要になることは事実だが、しかしこの作品においては殆どの焦点がキャラクターの構築に当てられていて、そのことこそがこの作品の魅力であるのだ。

この作品はグループの成長や、築き上げられていく絆などを見たい人に適している。この作品は登場人物の群像劇が60-70%、物語のプロットが35%くらいの割合で構成されていて、登場人物の成長に重きを置いているといってよい。実際に作品を見ることで、この作品に日常描写が多く伴っていることの重要性は理解できると思う。

 

灰と幻想のグリムガル 感想

 

ほとんどのシーンで作画は素晴らしかった。美しい映像はその良い雰囲気をもってストーリーを強く補完している。特に水彩で描かれた背景は、『Mushishi (蟲師)』に似た安らかな日常描写を誘起している。また描かれる背景は控えめで慎み深いものであり、登場人物に主な焦点を当てる作風と良い塩梅に調和している。しかし、戦闘シーンにおいてそのような背景は少々スリルを損なってしまい、アクションシーンの刺激に悪い影響を与えてしまうという問題も生じていた。

音楽も作画同様に素晴らしい。また、この作品ではユニークなモンタージュ(*挿入歌+静止画スライドショーのシーンの事だと思われます)が多く取り揃えられている。それらはストーリーや雰囲気の伝達を支援していて、作品をより良いものにしていたのだが、しかしある2つのモンタージュは誤用だったと言わざるを得ない。これについてはネタバレを含むので以下で言及する。


以下、ネタバレを含む。ここからは物語の批評について記していく。

まずは上記した2つの問題のモンタージュについて。1つ目は序盤の彼らの街での生活を描いたものだ。これはただ彼らが街に定住しているということを示すだけで、特に入れる必要は無かったと感じた。

2つ目は Manato が死んだ後に挿まれたモンタージュだ。これは挿入歌のペースが速すぎて憂鬱な場面との調和がとれておらず、雰囲気を壊してしまっていた。また Manato と過ごしていたシーンが不足しがちであったので、これら一連のシーンは少々慌ただしくなってしまったという印象を受ける。

全12話という制限のために、Manato とグループ員の間にある絆の描写は、かなり欠けている。Manato の死を悲しむ彼らに感情移入するためには、たった2つのエピソードだけでは不十分であったのは確かであろう。第4話のラストシーンは Manato とグループ員の絆をできるだけ描写しようとするあまり、急展開になってしまっている。たしかに彼らが困惑しているのは分かるのだが、それは些か表面的に感じた。

またキャラクターの描写に改善の余地があるとすれば、それは成長した後のキャラクターを描くための時間が少なすぎたということだろう。本来ならば第11,12話にそれらを描くものなのだろうが、この作品では新しく登場したキャラクターを描くために後半のストーリーを使ってしまっていた。全12話の制限というものは非常に難しい。

敵と戦い経験することによって、相手の弱点や攻略法を得ることができる。そして Haruhiro の持つ特殊能力はそれを可視化したものだと解釈できる。しかしその能力は Death Spots 戦においてすぐに発動されるべきでは無かった。彼は特殊な戦い方をするコボルトの長との戦闘経験が無く、すなわち彼のスキルが発動するはずがないのだ。Death Spots 戦は製作者が Haruhiro の成長を最大限に描写できる場であったはずなのに、しかし展開に急いでしまいその機会は無駄になってしまった。

結論として『灰と幻想のグリムガル』は8/10点に値する。これはこのサイトにおいて『very good (非常に良い)』作品であることを意味している。

(閑話)
製作者は「異世界に生きる登場人物」というもの間接的に非常に素晴らしく表現していた。彼らは異世界にいるということを最初こそ微かに意識していたが、それは時間の経過により薄れていき、やがては消えていった。このことは彼らの世界への適応力と、彼らが日常生活における些細な欲求を無視してただ生き残ることを優先している事実を示唆している。物語の終わり際に酔った Kikkawa は『Australia!』と気さくに叫んだ。なぜこのような意味のなさそうな事を彼に言わせたのだろうか。おそらく実世界との繋がりを示すために故意にその語を言わせたのだろうし、またこのことは彼らがこの異世界を受け入れていることを暗示しているとも言える。そしてその言葉を聞いた登場人物たちは、酔っ払いが適当に零した意味のない言葉であるとそれを軽く流してしまう。このこともまた彼らが不自然な世界に生きていることを示唆しているのである。



スポンサーリンク

 

▼:関連記事 

海外のベストレビューを翻訳する 【記事一覧】

海外のベストレビューを翻訳する -『ef: A Tale of Memories.』

海外のベストレビューを翻訳する -『フリップフラッパーズ』