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【新版】小説家になろうのオススメ作品40選

web小説の紹介記事を書き始めて早3年。なろう読み専としての総決算のつもりで書きました。これが今私が選ぶ40作品です。参考になれば幸いです。
 
タイトルから作品サイトに飛べます。気になる作品があれば是非。

 

 

王道なろう系ファンタジー

 異世界転生、冒険、バトル、ヒロインとの恋愛…などなど、まずは王道なろう系ファンタジーの名作の紹介です。初めてなろう小説を読むという方にオススメ。

 

人狼への転生、魔王の副官

1,397,936文字 / 完結済


  • 転生物と軍記物のバランスが絶妙な悪役転生モノ
  • 作者さんが書籍版の巻末コメントで「悪役転生にしたのは、基本的にやりたい放題できるからだ」と述べていたが、まさにその通りの内容。
  • 一口に悪役転生といっても特に悪いことをするわけでもないです。全体的な印象としては、経済を活性化させるべく奮闘する話という感じ。まあ戦争やったり商売やったり色々してます。この雑多感はなろうっぽくて結構好きでした。
  • そしてこの作品、登場人物の関係性が本当に良くて、特に主人公の「部下から慕われている苦労性の上司」感が最高です。よくあるハーレムみたいな胸焼けしてしまいそうな関係性ではなく、ただただ温かい関係性みたいな。

ダメだ、誰かが働いているとみんなで作業してしまう。人狼の、そしてゴモヴィロア門下生の悲しい習性だ。

  • ここが本当に良いです。この優しさ溢れる世界。
  • 全編どこをとっても安定して面白く、文章も読みやすく、適度に爽快感もある。登場人物も皆魅力的で、サブキャラクターの描き方がすごい上手い、上質な異世界ファンタジー作品です。

 

 

終天の異世界と拳撃の騎士

2,194,489文字 / 連載中


  • 剣と魔法の異世界を、拳一つで駆け抜ける。超王道の異世界バトル・ファンタジー。
  • 物語の導入はこんな感じ。(あらすじから抜粋)

 長年打ち込んできた空手に挫折しかけ、無気力な日々を過ごす高校生の少年・有海流護。ある初夏の晩、あれこれ思い悩む流護は、疎遠気味になっていた幼なじみの少女を夏祭りに誘おうと思い立つ。そうして携帯電話のメールを送り終えた彼が顔を上げると、周囲の景色が見覚えのない草原へと変化していた――。

  •  見ての通りプロローグの展開自体はスタンダード。
    • (実はかなりの伏線が張ってあったりするのですが…)
  • それで3章前半までのストーリー展開も正直テンプレの域を出ないというのもあり、こういうファンタジーを結構読んでる人は退屈に感じてしまうかもなのですが、3章後半3章後半のリューゴVSディノのバトルが本当に良くて。対決に至るまでに丁寧に二人のバックボーンを積み上げて、どちらにも感情移入させて、まるで主人公VS裏主人公かのような様相を呈してきて、プライドを、意思を、ぶつけ合う、絶対に負けられない男と男の喧嘩が、最高に良いんです。
    • もうここからは章が進むごとにどんどん面白くなっていきます。特に1-6章までのメインキャラクターを集めてバトルロワイヤルをさせる7章の天轟闘宴編の読み応えは抜群。
  • ファンタジー世界で拳一つで戦うってどうやってんだ?となりがちですが、それは作中でしっかり説明されます。説得力のある俺tueeeモノって結構貴重だったり。
  • 一応この作品は俺tueeeっぽい成分が含まれているのですが、主人公の造形が本当に上手いので、特に嫌悪感とかは無い思います。周囲の不自然な主人公アゲも無いし、普通に負けたりもする。自分の強さに自覚があるし、それで驕ったりもしない。なんというか普通で等身大な、感情移入するには最適の完璧な主人公なんです。特に恋愛面に鈍感じゃないってのは大変良い。自分に向けられる好意はちゃんと自覚するし、普通にいきなりすぱっと告白しちゃったりします。
  • ヒロインの配置も本当に良くて、主人公の心の中でただ一人のメインヒロインが決まっているというのは読んでて安心感があります。ヒロインもサブヒロインも本当に良い娘ばっかりなんですけど無限に語ってしまうのでここでは割愛…。
  • 他にも『家族愛』の描き方の素晴らしさや、巧妙に組まれた異世界そのものの謎、突然の現代へ帰還展開だったりと、魅力たっぷりの傑作だと思っています。
  • 現在は後章書き溜めのため連載休止されていますが、正直前章だけでもラノベ約20冊分のボリュームがあり、物語としてもキリの良いところで終わっているので、未完状態が気になる人も大丈夫かと思います。

 

 

蜘蛛ですが、なにか?

1,345,502文字 / 連載中


これは蜘蛛の魔物になってしまった主人公が、なんやかんやサバイバルして生きていく物語である。

  • 物語の序盤はだいたいあらすじ通り。割とゲーム的な世界観でステータスやスキル要素などもあり、ダンジョン風味な洞窟で蜘蛛として少しずつ強くなっていく感じが楽しい。
    • ただこういう感じの話を読み慣れている人はちょっと目が滑るかもしれません。序盤は何というか普通の作品なので。正直、5話毎に1回くらいずつ挟まれるサイドストーリー(同じ世界に飛ばされたクラスメートの話。彼らは人間として転生してます)をちゃんと読んでれば話は理解できるので、蜘蛛として成り上がっていく過程は読み飛ばしても大丈夫ではあります。
  • この物語が本当に面白くなるのは中盤から。成り上がり続けた主人公は洞窟の主をも倒してしまうのですが、ここで『世界の管理者らしき人物』からの連絡が入る。ここからが本番。作品の雰囲気がガラッと変わる。このあたりから蜘蛛さんサイドとクラスメイト達の2つの物語が交錯していき、どんどん盛り上がっていきます。
  • この段々と物語の全体像を明らかにしていく構成には舌を巻かざるを得ない。特に主人公の正体を巡る二転三転は非常に巧く、予想外の伏線回収に鳥肌が立った。
    • 散りばめられた伏線、叙述トリック、ミスリードに次ぐミスリード。物語としての面白さは保証します。キャラもまた濃い面子ばかりで楽しい。個人的には鬼鬼コンビあたりが結構好きです。
  • 本当に中盤以降は読み終え時が見つからず、まさに蜘蛛の糸に囚われた状態になってしまうので、時間があるときに一気に読むのがオススメです。

 

 

田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~

2,003,809文字 / 連載中(本編完結済み)


年齢イコール彼女いない歴のブサイクなアラフォーが異世界ファンタジーで俺TUEEEします。

  • なろうにおける「キャラクター小説」の金字塔。(だと私は思っている)
  • ストーリーはあくまでキャラクターを描くための触媒として使われていると感じた。それほどまでに全ての登場人物のキャラが立っていた。主人公は勿論、個人的なお気に入りは人外ロリ3人娘。
  • 話の展開は典型的な俺tueeeモノ。いきなりドラゴン倒すわ、そんでお嬢様に惚れられるわと、何番煎じか分からないテンプレなストーリー。でも面白い。続きが気になりどんどん読み進めてしまう。何故か。主人公がアラフォーのおっさんだから。
  • 行動は常に低姿勢で紳士的、それでいて内心ではセクハラ全開のおっさんが主人公なのだ。
    • ただ、この内心のセクハラ描写はギャグ風味なものの割ときついネタもたまに挟んでくるので変態キャラが受け付けない人はダメかも。読者の殆どが口をそろえて「とても万人にはおすすめできない、でも自分は好き」と言ってることから色々察してください。
    • まあ素面のときの主人公は普通に良識ある大人なので...。行動自体は常に紳士的なんですよね、だからこそセクシーな女性を目の前にした時とのギャップが生まれるというか。
  • そしてこの作品の魅力は何と言っても一癖二癖ある多彩なヒロインたち。メインヒロインっぽい3人を軽く紹介してみますと、まずぼっち錬金術師のロリエルフ先生、そして承認欲求モンスターな最強ドラゴン幼女、他人の心が読めてしまう病み気味褐色幼女、とまあ全員見事にロリなんですけどもここが作品の肝だったりする。
  • 人外幼女に懐かれるアラフォーのおっさん、めっちゃ良くないですか。……いやまあそれはともかく、とにかくこの作品、ヒロインが多い割には全くハーレム作品特有の気怠さが無いんですね。基本コメディ調というのもあるのですが、主人公の人となりとか、ヒロインとの年の差が上手い具合にそれを助長しているといいますか。なんというか『微笑ましいハーレム作品』みたいな感じ。
  • 文章もライトで読みやすく、頭空っぽで楽しめる「これぞなろう小説!」という傑作だと思います。ついつい読み返しちゃう中毒性も。

 

 

 

この世界がゲームだと俺だけが知っている

1,437,861文字 / 連載中


バグ満載のため、ある意味人気のVRゲーム『New Communicate Online』(通称『猫耳猫オフライン』)。
その熱狂的なファンである相良操麻は、不思議な道具の力でゲーム世界に飛ばされてしまう。
突然の事態に驚く操麻だが、そこは勝手知ったるゲームの世界。
あらゆるバグを使いこなし、ゲームの仕様を逆手に取る彼は、いつしか『奇剣使いソーマ』と呼ばれていた。

  • なろうにおけるゲーム内転生系ファンタジーの代表作だと思います。あらすじからしてもう滅茶苦茶に面白そうですが、実際相当に面白い。
  • この作品の魅力は何かと問われたら、まず思い浮かぶのが『伏線回収の鮮やかさ』だと思う。これは言及しすぎるとネタバレになってしまうので少々ぼかしながら説明してみると、世界観についての情報が明らかになっていくにつれ、小さい伏線が次々に回収されていき、それと並行して新たな伏線が至る所に何気なく自然に散りばめられていく。そして最後の最後にドカーンと大きい伏線が纏めて回収されて「あーっ!あれとあれとあれはそう繋がっていたのかーっ!!!」となる感じ。この種の爽快感に関してはこの作品の右に出るものは無いと思います。2章終盤までのストーリー構成は本当に凄い。
  • またMMO経験者なら「あるある!」と言いたくなってしまうような小ネタだったり、「ねーよ!…いや、あるかも...?」と言ってしまいそうな妙にリアルで面白可笑しいバグ要素などから、作者さんのゲームへの造詣の深さや愛情も窺えます。
  • コメディ要素が普通に面白い、というのもある。個性豊かなキャラクター達によるテンポ良い会話劇や、とんでも設定なゲーム内イベントによる一波乱だったりと読んでて飽きることが無いです。大体9割はエンタメに特化してる感じ。
  • そしてヒロインが可愛い。イーナ・リンゴ・ミツキの初期3人ヒロインが個人的に好きです。
    • まあそんなこともあって3章以降のサブヒロインが3人追加されてからの大所帯ハーレム路線は個人的にう~んって感じでした。ストーリーは変わらず面白かったのですが……。
  • とまあこのような感じで『常に読者の予想の斜め上をいく』唯一無二の名作だと思っています。なろうを読んだことない知人に作品を薦めるときは大体これと転スラを薦めてます。
    • 長期間更新が無い状態ですが、作者さんの活動報告(2018年2月)曰く「最終部分もほぼ完成」してるとのことなので気長に待ちましょう。

 

 

勇者イサギの魔王譚

1,386,219文字 / 完結済


「これからも、俺についてきてくれないか」
 ――共に歩んだ愛する少女へと告白した瞬間、少年は未来へと飛ばされた。彼を喚んだのは魔族の姫。彼が討ち取った魔王の末裔だった。

  • 気弱なオタク、勝気なヤンキー、冷静なイケメン、そして再召喚された勇者。それぞれ全く違う性格の4人をメインに据えた、複数主人公の魔王譚。
  • 魔王譚といっても特に悪いことをするわけでも無く、皆がそれぞれ自分の目的のために行動するという感じ。少女を守るため、少女と再会するため、そして少女を救うために。彼らは最愛の人のために己を貫き通す。このぶれない行動原理が最高に格好良い。やっぱりこういう一途な愛情というものは良いもので、12章中盤で一人の主人公が放ったこの台詞はこの作品の魅力を如実に表している。

「不完全な存在として作られた僕たちは、そのいびつな形を埋める片割れをいつか見つけ出すことができる。ノエル、人に生まれた君は、愛を知るべきだ。なによりもそれが、尊いものだ」
<12-7『デモン』より>

  • 先述した通り、この作品の主人公たちはとにかく我が強い。自らの中に決して譲れないものを持っているので、分かり合うことができず仲間割れすることはしばしば。序盤以降はほぼ4人揃うことは無く、基本的に4つのストーリーが並行して語られていく感じになる。そしてその4つの文脈が収束していく最終章が本当に凄い。卓越したワードセンスに熱すぎる演出。エピローグも完璧で広げた風呂敷はきっちり畳まれている。
  • 序盤はなんだこいつ……と思ったキャラもいましたが、しっかりと人間性が掘り下げられていくうちに気づけば全ての主人公に感情移入してました。それぞれの主人公が必ず手痛い失敗・敗北を経験しているのが良いと思う。そこから這い上がる姿こそが何よりも格好いいと思うから。

 

 

転生!異世界より愛をこめて

477,348文字 / 完結済


  • ヒロインとのすっちゃかめっちゃかな異世界二人旅を描く物語
  • 途中からはダブルヒロイン体制になるのだけど、彼女らのキャラクター造詣が本当に素晴らしくて、もう可愛すぎて萌え禿げます。なんというか、飾らない自然な可愛さの描き方が本当に上手い。
    • ヘラヘラしてるけど決めるとこは決める主人公だったり、常時ハイテンションな喋る魔剣だったり、とにかくキャラに味があって愛着が湧きます。
  • そして全体的に荒削りではあるが、テンプレ無視で破天荒なストーリーが強い
    • 文章は割と口語的で、パロネタも結構多いのでそういうのが受け付けない人はダメかも。
  • この作品、序盤は結構コメディな雰囲気なんですが途中からはシリアスも入ってくる。中盤からは本当に主人公に厳しくなってきて、精神的に追い込まれた彼は自暴自棄になってしまったりする訳で、そんな時にいつも憎まれ口を叩いていたヒロインちゃんが献身的に主人公を支えるシーンがもうまた本当に…。
    • とあるキャラクターの境遇については感想欄でも賛否両論ありましたが、私はその『容赦ない救いの無さ』で、この作品を好きになった。ハピエンだけが作品の全てじゃない、と私は思います。

 

 

 

詰みかけ転生領主の改革

677,180文字 / 完結済


  • 貴族のもとに転生したはいいものの、目の前に広がるのは破滅寸前にまで追い込まれた詰みかけ領地。そんな状況を現代知識を総動員して何とか復興させていく話。経済やら商売の話なども割かし本格的で、なろうファンタジーとは思えないほどの読み応えがあります。
  • この作品の主人公は2歳から改革を始めていきます。レビューや感想欄などで「幼すぎて違和感」みたいな言及は結構されていて、実際読んでいて変な感じはするんですけど、すぐ成長しちゃうので特に気にならなくなると思います。
    • 約70万文字で2→16歳までの流れを描いていることを考えると、作中の時間の流れは結構早い感じ。ストーリーもテンポ良く進むので読みやすいです。
  • こういう系の話って「主人公SUGEEEE」みたいな展開になりがちなんですが、この作品はそういうのはあまりない(序盤は若干その傾向があるかも)。主人公の周りの人たちもちゃんと優秀な感じに描かれていて、主人公のワンマンプレイで改革していくのではなく、皆で持ちつ持たれつ何とかしていこうみたいな雰囲気なのがとても良いな~と思います。色々な人物にスポットがあたる感じが好きです。
  • そしてこの作品は『主人公とヒロインが結ばれるまでの14年間の過程を描いた物語』でもあって、これが本当に良かった。物語中に散りばめられた主人公とヒロインの描写によって、歳を重ねる毎に段々と変化していく関係性が手に取るように分かるのが良いです。特にプロポーズ前の伏線回収は本当に素晴らしい。
    • 最終話も綺麗に締まるので、是非一気に読んでみてほしい作品です。

 

 

転生したらスライムだった件

2,091,226文字 / 完結済


突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!などと言いながらも、日々を楽しくスライムライフ。出来る事も増えて、下僕も増えて。ゆくゆくは魔王でも目指しちゃおうかな?
そんな、どこかずれた天然主人公の異世界スライムライフです。

  • 小説家になろうにおける『成り上がり』系小説の金字塔。
  • ざっくりストーリーを説明すると、最弱のスライムが最強の能力を使って成長して、配下を作り、国を建て、魔王となり、そして……みたいなお話。
  • 個人的に思うこの作品の凄いところが、冷静に俯瞰して見たら思いっきり俺tueee主人公sugee的な話なんですけど、物語を読んでいる時は全然そういう風には感じないところ。とにかく物語の構成やキャラの動かし方が上手く、なにもかもが主人公の都合の良い方向に向かうんだけど、それを違和感なく自然に読ませてくる説得力がある。
    • あとはシンプルに主人公がスライムなのが良いです。まず字面にインパクトがあるし、キャラクター性も強い。下の下から這い上がるストーリーも熱いし、男性性があまり感じられないのでハーレムな雰囲気にも厭らしさが無い。この辺は上手く作ってあるなあと思います。
  • 世界観の広げ方も上手い。個人的なお気に入りは序盤の国がどんどん発展していくところ。読んでいて本当に気持ち良いです。魔王界に参入するときのワクワク感も筆舌に尽くしがたいものがある。
  • 何と言いますか、万人受けする標準的な面白さを備えた作品だと思います。文章はかなりライトで、キャラクターも割とチープな感じではありますが、どこか引き込まれるものがある。初めてなろうを読む人には是非おすすめの作品。
  • コミック版もかなり評価が高くオススメです。何気にコミック版の売上はなろうでトップだったりするので、そろそろアニメ化に期待してもいいかも?

 

 

ラピスの心臓

997,739文字 / 連載中


  • 限りなく純度が高い俺tueee作品。何のごまかしもなく、ただただ主人公は強く義理堅く、様々な問題を解決していくし、出会った女性は彼に惹かれていく。そんななろう系テンプレが徹底的に硬派に綴られることで、ある種の昇華を遂げている。これほどまでに俺tueeeを綺麗に描けていることが凄い。
  • この作品はとにかくキャラクターを一人一人真摯に描いている。そして私達は彼らに深く感情移入してしまい、ヒロイン達の淡い恋心に、仲間たちの熱い友情に、胸を熱くせざるを得なくなる。それぞれのキャラクターが皆心の中に自分の正義を持っているのが良いです。
  • 主人公は12年間ずっと人里離れた土地で師匠と共に修行を続け、最強の戦闘力を持つことになる。そして人の世に出て、まだ見ぬ世界を冒険していく。知的好奇心の赴くままに世界を旅したかった彼であったが、何の因果か国軍に入ることになってしまい、様々なものに雁字搦めになっていく。そこに彼は何を見るのか。
    • この主人公が本当に良くて、普段は冷静で何事も達観している感じなのですが、たまに子供っぽいところを見せてきたりする。ちやほやされることを好まないところがクールで好きだし、仲間を本気で守ろうとする時の熱い感情も好き。とにかく好感が持てるキャラです。
  • ヒロインもみんな個性的かつ魅力的で、サブキャラ達もこれまた良いキャラしてます。私のお気に入りキャラはジェダ、アイセ、ア・シャラです。好きすぎる。

作者さんは物語作りがすごく巧みだと思います。人が「面白い」と感じられる要素というか、読んでいて誰もが本能的に快感を感じられる何かを心得てる人なんだな、と。

<ラピスの心臓 - レビュー一覧>

  • 実はこの作品、2年3カ月の間更新が無かったりしたんですが、更新再開した翌々日くらいには日刊ランキング2位あたりまで上がっていたのが凄かったです。多くの人が続きを待っていたんだなあ……と改めて思ったりしました。

 

 

絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで

992,510文字 / 連載中


  • より良い睡眠を求めて個性豊かな女の子達とダンジョンを経営するお話。
  • 正当派な作風ながら予想もつかないストーリーが良くて、とにかく的確に読者のツボを押さえてくる展開が見事。なろう受けする要素を上手く物語に落とし込み、俺tueee描写もくどすぎない程度に抑えて、限りなく万人受けするように気を遣って書かれている感じがあります。このへんは本当に上手いと思いました。
  • 主人公の造形も結構好きで基本的に「25時間眠って過ごしたい」が信念のろくでなしみたいな奴なのですが、割と自分に自信がある感じでダンジョンマスターの風格も時折見せてくる。「より良い睡眠を求めて」と行動基準が一貫してるのも分かりやすくて良い。
  • 一応悪役転生系のお話なので、基本的に人間である冒険者をやっつける話になるのですが、そのへんの倫理観やら云々は上手く描いていると感じました。ごく自然に、かつあまり嫌悪感を抱かないように配慮されて描かれています。
  • この作品で秀逸だと思ったのがヒロインの描き方。割とたくさん女の子が登場するんですけれども、それぞれに明確な役割を振っているのが見事でした。作者さんの中で主人公と恋愛関係で絡ませるのはこのキャラだけという線引きが為されているのが感じられ、安心して読めたみたいなのはある。
    • 他の女の子たちも軒並み主人公に好意を寄せているのは明らかなのですが、それぞれの関係が例えば師弟関係であったり、雇い主と従業員のような関係であることが上手く作用していて、チープなハーレム作品特有の気怠さのようなものが一切ない。この主人公とヒロイン達の間にある『親愛感情』のようなものがとても良い。
  • 全体的に高水準にまとまった良作だと思います。おすすめです。

 

 

その無限の先へ

2,291,597文字 / 連載中


前世の記憶を抱えたまま転生した先で待っていたのは、ゲーム的なシステムを持ちながらも現実的で過酷な日常だった。現代知識も意味を持たず、転生者という立場も有り触れている。
日本の記憶も全て幻だったのではないかと諦めたその時、ある街の噂話を耳にした。そこは、ありとあらゆる願いが叶う街。そんな胡散臭い噂話に最後の望みを賭け、少年は迷宮都市へと向かう……。

  •  そんな転生者がありふれた異世界で、個性豊かにも程がある仲間たちと『無限回廊』の果てを目指す物語。
    • とにかく舞台設定やら世界観の構築力が凄い。SFライクな感じで近未来感ある世界観が魅力的で、こんなところに住んでみたいな~となる。日常描写も妙に生活感があるので没入度が高いです。日常パートも結構多くて、そこでしっかりキャラクターの掘り下げもされているのが見事。

『冒険者は娯楽を提供するアイドルであり、迷宮探索はエンターテイメントである!』

    • 基本こういうノリの作品です。大体コメディな雰囲気。
  • ただバトルは滅茶苦茶に熱い。本家レビューでもバトル要素が絶賛されているのが殆ど。毎回ギリギリの戦いで魅せてくれるのは勿論、拳と拳で互いの意思のぶつけ合うみたいな感じが最高に熱い。
  • 転生前の不自然に欠落した記憶とか、詳細不明の謎スキルなど、続きが気になる要素も多くワクワクします。ストーリー展開も奇を衒わずに王道路線なモノが多く、安定した面白さがある。
    • 割となろう系の異世界ファンタジーをメタってるところとかもあるので、色んな作品に触れてから読むとさらに楽しめるかも。

 

 

無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

2,835,125文字 / 完結済


34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうやら異世界に転生したらしい。
彼は誓う、今度こそ本気だして後悔しない人生を送ると。

  • なろう総合ランキング1位の作品。納得の面白さ。
  • 主人公の生涯を軸として、彼に関わる人々の物語が枝葉のように紡がれていきます。主人公はある程度の魔法の才能を持っていますが、所謂俺tueee展開は殆ど無く、地に足ついた等身大な感じが良いです。主人公の”弱さ”もきちんと描かれていて、そしてその弱さをも受け入れ肯定していくストーリーが素晴らしいと思う。
    • 前世で完全に失敗してしまった人生を改心して1からやり直す、みたいな作品の金字塔だと思います。
  • 私が思うこの作品の魅力とはズバリ『家族』の描き方です。ヒロインと結婚して子供を作る作品って実は結構なろうでは珍しかったりするのですが、この作品はそれを最後まで描き切っている。特に娘が嫁に行く話はかなり感動してしまいました。

別に主人公が最強なわけでも、異世界を無双して渡り歩くでもなく、ただ自分の家族を守るために奮闘する1人の少年の、青年の、親父の、無職の物語。
<無職転生 - 異世界行ったら本気だす - - レビュー一覧>

    • ただ、この作品の主人公は様々な事情が重なり、結果として3人の女性と結婚します。彼女らに真摯に向き合い、悩みに悩みぬいて出した結論なので個人的にはそこまで忌避感は無かったのですが、如何せん妙にリアルで生活感がある作品なのでちょっと違和感を感じてしまう人はいるかもしれません。
  • あとは文章の安定感。これは本当に読みやすいと感じました。軽すぎず硬派すぎない絶妙な文体で、すーっと頭に入ってきてサクサク読めます。
  • 序盤の主人公は何というか変態性がかなり強調されていてドン引きするかもしれませんが、暫くしたらまともになるのでその辺りは何とか頑張って読み進めてほしい。なろう総合1位は伊達じゃないです。

 

 

マイナージャンル・ファンタジー

なろう系のテンプレ作品は飽きた!という方にオススメの作品たちです。全体的に硬派な雰囲気な作品が多いので、初めはちょっととっつきにくいかも?

 

Rotted-S

1,022,226文字 / 完結済


  • 壮大な世界観で描かれる転生無しの純正ファンタジー作品。
    • 卓越した文章力、作りこまれた舞台設定など、海外のジュブナイル小説を読んでいるような気持ちになる。『ハリー・ポッター』や『はてしない物語』などをワクワクしながら読んでいたあの頃の感覚を思い出す王道長編ファンタジー。

 人には見えないものが見える異能を持った少年アージェは、ある晩村で起きた事件を切っ掛けに、忌まわしい思い出が残る森へと踏み入ることになる。そこから始まる彼自身の変遷は、一人の美しい少女と、また大陸に残る神話と、深く繋がっていた。主人公の少年期から青年期までを描く成長記。そして大陸を彩る戦乱と、神代の清算を記す物語。

  •  お話の流れは大体あらすじ通り。一人の少女のために騎士になる少年。半人前な少年が様々な経験を通して世界を知り、時には大人に諭されながらも、一歩ずつ成長していく過程。とても綺麗な主人公の成長譚です
    • ただ、主人公の”成長”を描くという作品の都合上、やはり序盤のストーリーではどうしても上手くいかず、若干ストレスが溜まりがちかも。なろう特有のストレスフリーな展開に慣れてると、ちょっと読むのが辛いかもしれません。
  • そしてこの作品のもう1つの軸はボーイミーツガールな恋愛要素。一人の少年が一人の少女の騎士になり、そして二人が添い遂げるまでの話ですので、もちろん恋愛要素は結構ある。だいたいシリアス8割ラブラブ2割くらいな感じ。
    • ただまあ身分差や色々な事情があったりして、彼らは中々くっつきません。本当に長い間すれ違い続けるので、温かい目で見守ってやってください。後日談の幸福感を是非味わってほしい。
    • 2人がくっついて、共に過ごし、そして生涯を終えるまでの過程が少しずつ短編連作の形で綴られる後日談がもう最高なので...
  • とにかくなろう色が全くない異世界ファンタジーといった趣きの作品です。ストーリーには重みがあり、世界は主人公に優しくない。なろうテンプレな享楽的な作品には飽きた~って方にオススメの作品です。是非!

 

 

Unnamed Memory

1,517,364文字 / 連載中(本編完結済)


「貴方がその剣の持ち主で、私が魔女である限り、いつか貴方は本当に私を殺さなければならないかもしれませんよ」 
幼い頃、子供が残せないという呪いを受けたファルサスの王太子オスカーは、二十歳になった時、大陸最強と言われる魔女ティナーシャを訪ね、その解呪を願う。それを切っ掛けに彼女を守護者として連れ帰ったオスカーは、契約が切れるまでの一年間、ティナーシャの過去に関わる因縁に、そしてもっと大きな運命に巻き込まれて行くこととなる。

  •  王と魔女の出会いから始まる王道ファンタジー作品。先ほど紹介した『Rotted-S』と同じ作者さんの作品。世界観も同一で、そして同様に綺麗な筆致で描かれる重厚なストーリーが素晴らしい。こちらの作品も割と恋愛色強めです。
  • この作品の魅力はまず第一に主人公。一国の王が主人公です。成人済みで思慮も深く、真っ当に強くて格好良いという逆になろうでは珍しいタイプ。対してヒロインは数百年生きた冷静沈着な大陸最強の魔女……と思いきや割と危なっかしいお転婆娘だったりする。まあ~めちゃくちゃ可愛いです。
  • ストーリーはシリアス全開ですが、合間合間に挟まる主人公とヒロインの掛け合いがコミカルで楽しいので重苦しくて息が詰まるみたいなことは無いと思います。恋愛要素も本当に良く、個人的に異世界恋愛ジャンルで最高のものだと思ってます。
  • ハイファンタジーとして読んでも勿論面白い。壮大な世界観の構築力、張り巡らされた伏線、魅力的なキャラクター達。短編連作の形をとっていて、様々な切り口から語られる彼らの物語はただただ面白くて読み終え時を忘れてしまう。
  • 本編は100万文字程度で完結。現在サイドストーリーが連載中です。

 

 

ロスト=ストーリーは斯く綴れり

1,379,902文字 / 完結済


過去に多くの魔術士が諦め、現在では“一攫千金論文”と揶揄される研究に臨むアウロス。才能も愛想もないその少年の揺るぎなき信念は、それぞれに質の異なる闇を抱えた同僚達を巻き込み、やがて大学、そして国家にさえも多大な影響を及ぼす――――

  • 舞台は魔術大学。高速詠唱についての研究を巡る、舌戦飛び交う群像劇。主人公は研究職なので、物語の前半は組織内のごたごたが主に描かれます。半沢直樹みたいなストーリーといったら分かりやすいかもしれません。
  • とにかくこの作品の魅力は、それぞれ腹に一物ある底が見えないキャラクター達。

この大学にいる誰しもが魔物を抱いている。自分以外には決して懐かない魔物を。
---第2章 研究者の憂鬱 (2) より

  • 序盤の研究室の雰囲気はもう完全に冷え切っていて、誰も本音で話そうとせずに針を纏っています。主人公も大体そんな態度をとっています。そんな彼らが様々な出来事を通して、少しずつ心を開いていく過程が本当に良いです。仲良しとまではいかずとも、互いを尊重しあいながら研究を進めていく。そして大学編のラストシーン。全ての文脈が綺麗に着地した最高の締めでした。感無量の一言。
    • 後半からはまた雰囲気がガラッと変わるのですが、前半を楽しめた人なら後半も同じように楽しめると思います。
  • ただ序盤は雰囲気が暗かったり、ちょくちょく小難しい設定の説明が入ったりなど、人によっては読むのが辛くなるかもしれません。ただそこを抜けると間違いなく面白いです。第4章あたりからが本領発揮といった感じ。
  • 魅力的なキャラクター達、隙が無いストーリー構成。シリアス一辺倒な作品かと思いきや、明るく喧しいキャラクターが緩和剤となっていたりと、丁度良いバランスを保っている良作です。オススメ。
    • これはちょっとした蛇足なのですが、理系の研究職に興味がある人がこの作品を読むと、ちょっとした勇気をもらえたりするかもしれません。

 

 

ユニエの森の物語

235,156文字 / 完結済


ユニエの森にひっそりとたたずむ教会。そこには戦争孤児である6人の少年少女たちが住んでいた。最年長であるシャーロを中心に、慎ましくも幸せに暮らしていたが、雪どけが近づいたある日の夜、リーザはシャーロに「この家を出て行ってもらう」と告げられた。

  • ファンタジーっぽい世界観だけれども、実際には魔法やモンスターは殆ど出てこない。この作品で主に描かれるのは、人と人とのヒューマンドラマ
  • 主要キーワードは家族、お仕事、恋愛の3つ。以下で軽く補足説明を。
    • *家族:戦争孤児となり行き場を失って集まった少年少女。彼らに血縁は無いのだけど、生き抜くために皆で団結して、まるで家族のように絆を深めていきます。互いが互いを大事に思う、思わずほっこりしてしまうような温かい関係性がこの作品の魅力の1つでしょう。
    • *お仕事:物語の序盤では農業や酪農を営んで細々と森で暮らしていますが、最年長のシャーロは下の子供たちを学校に行かせるために商売を始めます。ワインを作ったり、便利グッズを作ったり。ここの見どころはシャーロの商才。とにかく聡明で頭が切れるので読んでて非常に気持ちが良いです。
    • *恋愛:最年長組でみんなのまとめ役、所謂お父さんお母さんポジションの二人の恋愛要素が主に描かれる。もうとにかく甘酸っぱくて、幸せ~~~って感じの恋愛です。ふとした瞬間の好意の自覚や、長い間離れ離れにさせたりなど、描写や展開も本当にお上手。
  • だいたいこんな感じのお話なのですが、この作品はとにかくキャラクターの掘り下げが深いので、それぞれの要素の魅力がぐんと上がっているんです。6人のうち誰か一人でも欠けたらストーリーは成立しないし、その点群像劇としての完成度はかなり高いと思います。
  • そしてもう一つ推したい点が『ストーリーの起伏』について。この作品、実は結構山あり谷ありなストーリーだったりする。言ってしまえば子供たちだけで大人の世界に挑む話でもあるので、かなり危うい橋も渡るし、ピンチに陥ったりもする。こういう程よい緊張感がある作品、結構貴重だと思います。
  • ヒューマンドラマをメインにした群像劇を読みたい方、是非ご一読してみては。

 

 

死神を食べた少女

335,278文字 / 完結済


  • 痩せこけた村娘が死神となった話。

死神を食べたらどうなるんだろう。
私には良く分からない。分かるのはたった一つ。
お腹がすいた。
だから、こいつらの首を持って偉い人に届けよう。
きっと美味しい物が食べられる。
さぁ、準備が出来たら出発だ。

  •  "死神を食べた少女"シェラが弱小軍に入って、撤退戦・末期戦の中で生きていく話。硬派な戦記モノのストーリーに対して、大鎌を担いで元気に無双する少女はファンタジーに描かれる。この二つの要素が組み合わさり物語は幻想性を帯びていく
  • 戦争に負け続け、絶望ひしめく弱小軍にポッと現れた最強の黒髪少女。シェラは軍の中でみるみるうちに台頭していく。この天下無双の戦闘力、溢れ出るカリスマ性たるや! 少女が無双する系作品の金字塔だと思う。
    • しかし少女たった一人で戦況を覆すことは不可能であり、ストーリーが進むごとにじわじわと戦況は悪くなっていく。この程よいストレスがよくある俺tueee作品とは一線を画します。絶望と爽快が入り混じった独特な雰囲気が好き。
  • また戦線を共にする兵士と彼女の関係性が心地良いものでして。兵士達は彼女を慕い、彼女は兵士達を大切に思う。孤軍奮闘する少女に心を震わせ、兵士達は雄叫びを上げ、負け戦と分かっていながらもそこに駆けていく。
  • 少女が戦争に参加する理由が、徹頭徹尾「ごはんが食べたいから」というのも良かった。食事シーンもほのぼのしていて、このシリアスになりすぎない感じはなろうっぽくて良いな~と思いました。
  • 文字数も文庫本2冊くらいなので、気軽に読める一作だと思います。また似た雰囲気(世界観も同一っぽい)の作者さんの別作品がいくつかあるので、そちらもオススメです。

 

 

おんらいん こみゅにけーしょん

447,220文字 / 連載中(本編完結済)


  • 『VRモノ+TS+ロリ+恋愛』というとんでもない組み合わせ、かつ引き籠りで自殺未遂の主人公という爆弾のような設定を抱えながら、それらを真っ向から描き切った良作。
    • TS+恋愛というジャンルなのでまあ精神的BL要素があります。苦手な方はご注意を。
  • 自分がロリ少女になってしまったショック、重くのしかかる過去のトラウマなど辛い現実から目を背けるため、主人公はVRMMOという仮想世界に逃避する。そこで温かい仲間達と触れ合い勇気をもらいながら、彼(彼女?)は現実と向き合っていく…だいたいこんなお話。(以下主人公は彼女と記載)
  • ここで強く推していきたいのが、この『現実と向き合っていく』というワード。この作品はVR世界に逃避してちやほやされて承認欲求を満たして優しい世界で平和に暮らす…というだけの話ではない。仮想世界に逃避したところで、現実世界で彼女はただ家に引きこもっているだけで何も変わっちゃいない。そこを変えていく。仮想世界で勇気を得た彼女が現実世界で、ぎこちなくても、震えながらでも、その一歩を踏み出す、という話なのだ。
    • 個人的には現実パートこそがこの作品の真価だと思います。特に両親の話は良かったです。目頭が熱くなる。こういう親子愛みたいなのにめっぽう弱い。
  • ただVRパートはもう主人公にダダ甘の優しい世界という感じで、まあ見た目も美少女ですしちやほやされる訳で、受け身の主人公がただただ享受するだけみたいな構図が割と顕著です。この辺はちょっと好き嫌いが分かれるかもしれません。
  • 心理描写はかなり上手いと感じた。周りの人物に対する感情の変化は勿論、TSモノとしての性への戸惑いの描写なども良かった。特に好きなのがここの恐れを抱いているシーン。

男であったことを無意識で過去の事だと捉えてしまっているのだ。少しずつ心の中まで女の子へと変わって行く、それに順応していく事が怖くて怖くて仕方ない。

  •  あとは挿絵がある。これが結構強い。作者さん自ら描いているらしいです。すごい。銀髪ロリ可愛いです。うむ。
  • おまけのアフターストーリーを連載してる途中で残念ながらエタっちゃいましたが、本編は40万文字程度できっちり完結してますので大丈夫です。

 

 

この異世界で一番美しいものを探す旅

1,060,243文字 / 完結済


  • 少し捻くれた少年が異世界で初めて仲間を、居場所を得る話。
  • 3人の少女と共に4人パーティを組み、世界で一番美しいものを探す旅に出るというなろうでは割と珍しいタイプの異世界ファンタジー。内容はシリアス寄りかつダークな雰囲気。まあ正直タイトル詐欺みたいなとこはあると思います。決して綺麗な作品ではない。そこが魅力でもあるのですが......。
  • この作品に関してはなろう本家に投稿したレビューがあるので、そのまま引用しちゃいます。

「一回くらい、全力で生きてみたいと思ったんだ」

この作品の魅力は、主人公とその仲間達にあると感じた。
現世での様々な出来事でひねくれてしまった彼は、偽善を良しとせず、事あるごとに露悪的に振舞おうとする。しかし彼が人の痛みが分かる、心根の優しい人物であるということを仲間達は皆理解している。
懐疑的で、気の利いたことも言えず、常に相手のことばかり考えて自分の居場所がなくなることに強く不安を覚えてしまう彼が、異世界で初めて仲間を得て、旅をして、成長していく物語。
レビュータイトルは物語の終盤で彼が放った言葉である。
異世界転生モノならではの、最高にアガる台詞だと私は思うのだ。

  •  正直伝えたいことはこのレビューにほとんど詰め込んであるのであとは補足をちょちょいと。
  • まず主人公について。序盤の彼はもうめっちゃスレてます。割と不良系。ナチュラルに性〇隷とか買おうとするヤツです。ただ根っこは打たれ弱いし、情に熱いヤツでもある。中盤終盤あたりから本領を発揮してきて、本当に質感のある良い主人公になります。
  • 次にヒロイン3人について。この作品の特徴として、結構初期のあたりでヒロインが全員出揃ってその後ラストまで4人パーティ固定で物語が進行していくんですけども、これが本当に良くてですね。キャラを本当に大事にしているのが感じられるといいますか。章を追うごとにメインキャラクターの過去を明らかにし、しっかりとキャラを掘り下げ、どんどんと面白くさせていく構成も見事。
  • そして彼女たちと主人公の関係性がまた良くて。決して仲良しこよしのグループじゃないんです。むしろかなり歪んでいる。ハーレム状態というよりかは、三股してる状態というほうが正しい感じ。全く享楽性のないハーレム作品、みたいな。ただヒロイン同士の仲が悪いわけじゃなくて、むしろかなり良好。この辺りの関係性のエモさは読んでみないと分からないと思う。上手く伝えれる気がしない。
  • 言ってしまえば4人パーティ皆が主人公みたいな作品です。共に支え合い、時には衝突し、皆で成長していく関係性。良作です。

 

 

リライト・ライト・ラスト・トライ

915,870文字 / 完結済


神獣の守護人は、異世界からやって来る。
守護人の護衛官を務めることになった青年トウイ。そして選ばれた少女・椎名。
彼女の願いは、故郷への帰還ではなく、世界の安寧でもなかった。
──「望むものは、たったひとつ」

正しい道を見つけて、掴んでみせる、必ず。
何を代償にしても。
-----第2章『はじまりの時』

  • 『神獣の守護人』として見知らぬ異世界に召喚されてしまった少女・椎名がその現実に耐え切れず一人ふさぎ込むなか、彼女に唯一手を差し伸べたのは護衛官の青年・トウイだった。そんな彼を死の運命から救い出すために何度も、何度も、何度もループを繰り返した少女のラスト・トライを描く異世界ファンタジー。
    • メインで描かれるのは最後の周回のみなので、一般的なループものとはまた違った趣きがあったりします。
  • この作品の特徴は『ループ能力』の負の要素を惜しむことなく前面に押し出しているところにあります。そしてそこが他の作品にはあまり無い魅力でもある。
    • まずストーリーはループを繰り返して最適解を探していく、という展開では無い。未来は無数に分岐し、彼が死ぬ時の状況は毎回異なる。ループの記憶もまあ役に立たないこともないという程の価値しかない。
    • そして自分だけ過去をやり直すというズルをしている自覚からくる罪悪感。ただ一人を助けるためだけにループを行い、助けることが出来たであろう他人を見殺しにしなくてはならないという葛藤も少女を蝕んでいく。
    • 心を殺し、ただただ淡々と繰り返しているつもりでも、回を重ねるごとに少しずつ積み重なっていく狂気。そして、何度ループを繰り返したとしても『最初に私を助けてくれたあの時の青年』を救うことはできないという事実。
  • 人は次々と死んでいきますし、神様気取りの神獣の煽り言葉に苛々したりと主人公の心だけでなく読者の心まで折ってくるような作品ですが、ストーリーの面白さは物凄く、ページを捲る手は止まらなかった。
  • まあこのような全体的にシリアスで暗めな雰囲気の作品ですが、一応ボーイミーツガールな作品というのもありまして、ずーっと友達以上恋人未満みたいな感じの少し甘い程度の恋愛模様もしっかり描かれています。そういう恋愛要素が好きな方も是非読んでみてほしいな~と思います。

 

 

ノームの終わりなき洞穴

754,523文字 / 完結済


地の精霊が作ったと噂される世界屈指の巨大洞窟、ノームズ・エンドレス・ダンジョン。その最奥を見た者は未だおらず、今なお洞窟は複雑に延び続けている。命知らずの冒険者が最後に挑むラストダンジョンとしても有名なこの洞窟。実情はたった一人の錬金術士と意地汚い精霊によって、やむにやまれぬ理由から作られていた。

  • 2000歳の精霊と錬金術士と魔眼少女が織り成す硬派なダンジョンもの。或いは、いとも簡単に命が消費されていく世界で起こった悲劇とも。
  • 1~16章はとにかく地中を掘っていく話。道中湧き出したスライムやノームを使役しつつ、宝石を求めて、奥底へ、深淵へ、どこまでもどこまでも進んでいく。洞窟内の生態系や、スライムが突然変異で進化していったりと、独特の世界観を築いていて読んでいて飽きることがない。
    • そしてその掘った洞窟に住み着いた魔物、掘り残しの宝石などに釣られて冒険者が集まってきて、その洞窟はダンジョンとして有名になっていく……みたいなお話です。主人公グループと冒険者グループの話が交互に展開されていきます。
  • そして17章~20章は地下深くで発見された難攻不落のダンジョンに挑むお話。ここからが本番です。これまでに積み上げてきたものを切り崩しながら前へ進んでいく感じに何とも言えない良さがある。特に最終章が最高で、展開だけ見たら『悲劇』そのものなんですけど、それでも最後の決意のシーンは本当に良くて。ネタバレになるので詳しく書けないのがもどかしい......。
  • この作品を読んでて思ったのは、とにかく世界観の広げ方が上手いということ。1~16章はまあ掘るだけなので同じような展開が続くのですが、定期的に新しい要素が追加されていくので中弛みを感じない。それでいてメインキャラは3人で固定されてるのがまた良い。
  • この作品は『ノームの終わりなき道程』の前日譚になってます。『終わりなき洞窟』で様々なモノを失った主人公が『終わりなき道程』で幸の光を探す旅に出る、という流れです。なお『道程』は現在連載中。

そして少女は宝石の丘を発った。
いつ来るとも知れない人を想って。
待つのではなく、向かっていった。
精霊達と共に、自らの足で帰還の道を辿り始める。
-----【ラストダンジョン:宝石の丘】『闇色乙女』

 

 

棺の魔王 (コフィン・ディファイラー)

798,205文字 / 連載中


灰色の雲に覆われた草原の国、コフィン。
天空を舞う竜をあがめる王国に、ある日『神』と呼ばれる巨大な生き物をともなった軍勢が侵攻して来た。
不可思議な武器を持つ女剣士、異形を体内に飼う勇者、無言の兵士達。
人外の力で国を滅ぼさんとする者達に、生き残ったコフィンの英雄達が立ち向かう。かつて魔王と呼ばれた男の魔術をめぐる、戦記ファンタジー。

  • コフィンという国の趨勢を描く、複数主人公の骨太ダークファンタジー
  • ファンタジーもののテンプレスキルをほぼ全て手にした悪の勇者に立ち向かう、努力とプライドのみで研鑽を重ねた普通の人間たちの物語。或いは、敗北者たちの物語ともいえるかもしれない。
  • この作品の魅力は何と言ってもカッコいい登場人物たち。もうとにかく格好良いキャラが多すぎる。脇役も、ヒロインも、悪役も、敗北者すらもカッコいい。誇りを捨てず、信念を曲げず、時には屈しそうになっても克己する姿が本当に。読んでいて熱いものが込み上げてくる。特に痺れたのがこの台詞。

<しかし敗者こそ弱者こそが 貪欲に勝利を 力を渇望する者也>

  • 個人的に今ままで読んだなろう「戦記」ジャンルの中では1位2位を争うレベルの面白さでした。ダークな世界観、見事すぎるストーリー構成。バトルシーンの迫力も凄く、思わず引き込まれるものがある。恋愛要素はあまり無い感じです。ヒロインも姫様も共に戦おうみたいな感じの話なので。

 

 

用務員さんは勇者じゃありませんので

1,459,114文字 / 連載中


  • チート能力も何も無い用務員さんが、弱肉強食の理不尽な異世界を命がけでサバイバルする物語。次々と降ってかかる苦難を相棒の雪豹と共になんとかかんとか乗り越えていく、みたいな感じです。
  • まず初めに、この作品は「人間VS人間」の物語であり、全員が幸せになるご都合展開も、主人公補正も、胸のすくような爽快感も殆どありません。そこに在るのはどうしようもなく儚い、切ない、ちっぽけな救いの描写のみ。
  • 章ごとにストーリーが区切られていて、ひとつひとつの章が物語として完成されています。それぞれのストーリーの雰囲気は総じて明るいものではなく、バツイチの女奴隷を買う話、故郷を捨てた売春婦の女の話など、暗い題材が多いのだけども、話自体はかなり面白い。
    • ただ前述した通りこの作品、どの話も完全なハッピーエンドでは終わりません。後味が悪いみたいな感じはあまり無いのですが、何というか色々と考えさせられる、そんな話が多いです。こういうところがこの作品の魅力なのかなあと思ったり。
  • あとは主人公が良いです。精神面も身体面も強く、とにかくハードボイルドで格好良い。普段の冷徹な一面に痺れ、時折見せる人間味に微笑まされる感じ。書籍版のイラストでは屈強なソビエド軍人みたいに描かれてます。強そう。
    • そしてメインヒロインが雪豹。「かわいさ」と「かっこよさ」を兼ね備えたハイブリッドヒロインです。安易に擬人化に走らないところがまた硬派で好感が持てる。主人公との関係も「相棒」って感じで良い。本当に良いコンビだと思う。
  • なろう系のテンプレは苦手だな、飽きたなと感じてる人達に是非読んでほしい作品です。きっと序盤から引き込まれると思います。

 

 

ファンタジーにおける名探偵の必要性

851,760文字 / 完結済


ミステリマニアである冴えない探偵は死んだ。しかし、その記憶を持ったまま、剣と魔法、そしてモンスターとダンジョン、王道のファンタジーの世界に平民ヴァンとして転生する。ヴァンはずば抜けた魔術の才能、そして前の世界からの知識や感覚で、平民でありながら成り上がっていく。だが、そのヴァンの前で、不可解な殺人事件が起きる。

  • 異世界転生×本格推理小説。
  • 全6章から成るこの作品は、全ての章が出題編・解決編に分かれている。出題編で前提条件・状況証拠・関係者の証言を示した後、読者に挑戦状が突きつけられる。君は真実を暴けるかと。私はあまり推理小説に詳しくないのですが、きちんと推理小説としてのルール(ノックスの十戒)は守っているとのことです。

「さて、賢明なる読者諸君には既にこの事件の真相がお分かりだとは思うが、ここで身の程知らずにも読者諸君に挑戦をしてみたい」

  • 私はひとつも解けなかったのですが、その分解答編は「あーーっ!そういうことか!」の連続でした。こういう気持ちよさを味わえるのは推理要素の強みだなーと思う。ファンタジーな要素が上手くトリックとして使われています。
  • 作品としての完成度もとても高く、特にプロットの作りこみが凄い。多分第1章を読み終えたらこれがとんでもない作品だということが分かると思うので、とりあえず気になったら読んでみてほしい。私も最初はジャンルを見て「う~ん」となっていたのですが、読み始めたら止まらなかったので。

 

 

伝奇

ゲーム的ファンタジー世界観ではなく、実在するの伝説・伝承(妖怪・神話など)に基づいた幻想的、空想的な作品たち。SF要素が含まれる作品が多いかも。伝奇の厳密な定義がいまいち分かっていないのですが、まあ多分だいたいそんな感じだと思います。

 

鬼人幻燈抄

2,122,368文字 / 完結済


  • 惨劇の果てに鬼人に成り果てた主人公が、江戸から平成へ長い時を旅する物語。

生き方を曲げられない1人の鬼が、人と出会い、別れ。余分なものを時に斬り捨て、時に背負いながら、激動する人の世を生きていく。
<鬼人幻燈抄 - レビュー一覧より>

  • 不幸なすれ違いの果てに積もり積もった感情が最悪な形で爆発してしまい、主人公の妹が主人公と相思相愛の女性を惨殺して逃亡する。この惨劇が物語の起点。最愛の人を殺した実妹への憎悪に囚われながら、それでも妹への情は完全には捨てきれず。何故あのようなことが起こったのか。自分はどうすればいいのか。長い旅の中で自分と向き合っていくお話。
    • 世界観は和風ファンタジー。舞台は現世、作中の出来事も史実に基づいている。しかし主人公は鬼となるし、怪異は身近に存在している、そんな世界の物語。いわゆる和風怪異譚。
  • 老いることが無い鬼人となった主人公は、170年間を過ごす過程で色々な人と出会い、そして別れを繰り返す。そして忘れたころにひょんなところで昔馴染みに再会したりする。お前は全然変わんねえなあ、俺はこんなに変わっちまったよ。みたいな。
    • こういう『別離と再会』がまた良い。ほんとに忘れたころに再登場するので何というか伏線回収みたいな気持ち良さがある。
  • 具体的なストーリーの紹介としてここで『捨て子の娘を拾って育てる話』を挙げたい。作中では色々なエピソードが綴られている訳ですが、その中でも一際強いのがこのお話。慣れない子育てに苦戦しつつ、それでもすくすく娘は育ち、反抗期を経て、共に店の手伝いをするようになり、そしていつしか成長が主人公に追いついてしまい………。
    • この話はもう本当に感情がグワ~~~~ってなります。そして読んだ後はじんわりと感傷に浸ってしまう……そんなお話です。
  • 他にも魅力は数えきれないほどある。流麗な文体。巧緻な情景描写。心に染み入る言葉選び。一つ一つの章として完成されたストーリー。強くて弱い等身大な主人公。一本芯が通った魅力溢れるキャラクター達。代々受け継がれていく意思。長い時を経ても繋がっていく想い。
  • 序盤こそかなりシリアスですが、基本的に人情噺がメインなのでほのぼの系のストーリーも結構あります。そういうのが好きな方も是非。

 

 

INVISIBLE -インヴィジブル-

1,758,262文字 / 完結済


  • 人類進化の終着点と科学技術をテーマにした、現代神話風セカイ系SF群像劇。
  • 本家あらすじはこんな感じ。

 神秘のベールを脱いだ神々と人々が互いに手を携え、宇宙存亡をかけ創世者INVISIBLEに立ち向かう。神話と伝承、神と魔の存在を科学で暴き出す、終末阻止系SF小説。
人類、文明、科学、生命への讃歌。
人類進化論とテクノロジーが人々にもたらす功罪をテーマに、地球の行く末を描く群像劇です。

  • なんだか物々しい謳い文句、かつカオスすぎて何がなんだか…という感じですが、ストーリー自体は多種多様な神様たちが世界を救うために色々がんばるというシンプルなもの。
  • このあらすじを読んで面白そうと思った人は絶対ハマると思います。哲学・神学・理学の知識に裏打ちされたストーリーは非常に奥深く、恐ろしいほどの魅力を醸します。きちんと整合性のとれた膨大な設定群も好きな人はとことんハマるはず。

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位階10までの神様の設定一覧(こういうオリ設定群、大好き…)
  • 神々が所有する能力やツールが、現代科学で説明できてしまう点も他の作品には無い魅力だと思う。理系のSF好きには垂涎モノだと思われる。実際に書いてる人が理系畑の医学博士さんなので、そのあたりの説得力もある。
  • ただ、この作品のすごいところは設定だけではなくて。群像劇としてのドラマがめちゃくちゃ面白いのだ。各陣営の様々な人間、神々、天使達が様々なドラマを描いていく。どんどん規模が大きくなっていく感じがワクワクします。
  • 登場人物はかなり多いですが、それぞれが強烈な個性を持っていて混雑することはないと思います。特に格好いい大人がたくさん登場するのが良いです。渋いオヤジが活躍する作品に外れは無い。
  • 全180万文字、風呂敷も綺麗に畳みきっています。SFに興味ある方は是非。

数学や哲学、宇宙の難しい理論は、完全に理解できなくても大丈夫。ノリと勢いでそれらを越えると、良質で本格的なSFが楽しめます。
<INVISIBLE -インヴィジブル- - レビュー一覧>

 

 

武士は食わねど高楊枝

1,178,525文字 / 連載中


  • 魔法技術を持つ亜人の出現によって、ファンタジー化を遂げた地球の見聞録。

 プロポーズを予定していた日、若者は化け物じみた力を持つ少年に殺された。そして転生を経て、この世界が生前好んでいたファンタジー的世界であることを知る。

  • 破天荒なストーリーと魅力的な設定群が凄い。八百万の神々、クトゥルフ神話、フリーメイソン、カバラ数秘術など色々なテーマをオリジナリティ溢れる解釈で物語に引用していたり、章ごとに変わる主人公など、とにかく個性的な作品。
  • 鬼に攫われたり、無貌の神に弄ばれたり、過度な虐めを受け精神崩壊したり、ヒロインとずぶずぶの共依存関係に陥ったりと、アクロバティックなストーリー展開にぐいぐい惹きこまれます。舞台や人間関係もどんどん変わっていく。
    • ただ、章が進むごとに登場人物たちがどんどんと陰惨なことになっていくので、鬱展開に耐性が無い人は読むのがしんどいかもしれないです。
  • しかし個人的にはこの鬱展開こそにこの作品の魅力があるとも思っている。どん底のどん底で長い間燻っていたからこそ、それを乗り越えた際のカタルシスは大きくなるわけで。そういう飴と鞭はしっかりしている作品です。

確かに人を選ぶ要素はある。だがハマったが最後、この世界から逃れることはできない。待っているのが例え、最悪の結末だと理解していても…
<
武士は食わねど高楊枝 - レビュー一覧>

  • 登場人物、世界観の作りこみはなろう作品の中でもトップレベルだと思います。文章力も高水準で、作中の雰囲気は割と高尚。硬すぎるわけでも、崩れすぎているわけでもない丁度良い感じ。
  • 第3章『我が身を滅ぼせ、英雄よ』編がとにかく凄まじく、個人的に2017年でなろうを読んでて一番興奮したのはここでした。これぞ鬱展開の真髄って感じの作品。普通の小説に飽きた方、刺激を求める方は是非。

 

 

鬼神純情伝!

192,856文字 / 完結済


平凡な生活を送っていた少年は、世を揺るがす大騒動に巻き込まれる。はてさてこの少年は、調伏されし鬼を従え、救国の英雄と相成るか。悪鬼羅刹より転生し、式神となったこの鬼は、護国の鬼神と相成るか。強力無比な恋敵を前にして、桜花咲く純情可憐な恋心の行方は何処。
奇想天外な和風ファンタジー、ここに開幕で御座候――

  • ひょんなことから世にも恐ろしき千年悪鬼が純和風美少女に転生してしまう。そんな彼女が冷静沈着で豪胆(に見えるように演技している)主人公と『3つの災厄』に立ち向かうお話。
  • まず述べるべきはこの文体。まるで歴史モノのような硬派な雰囲気でありながら流れるように読める洗練された文章。時代錯誤なメインキャラ達の口調も上手く作品と調和している。この徹底して描かれる『和の世界観』が本当に魅力的。
  • 平成の現代を舞台に、またファンタジーという『和』とは相容れ無さそうな要素を含みながらも、この作品の雰囲気は徹頭徹尾『和』なのである。それでいてライトノベル的な可愛らしいヒロインをきちんと据えることで固くなりすぎないところも見事。『奇想天外な和風ファンタジー』の看板に偽り無しです。
  • そしてこのヒロインが本当に可愛い。くそでっかい鬼から和風美少女に転生しちゃう訳ですが、もうギャップ萌えの権化みたいなキャラでして。さらにチョロインというあざとさ全開のキャラ造形なのだけれども、ストーリーがしっかりしているので主人公に惹かれていく過程にもきちんと説得力がありまして、もう本当に強いです。さらに中盤からは千年妖狐も加わってダブルヒロイン体制になってまたニヤニヤできる展開に云々…...。
  • 全20万文字程度(文庫本1冊程度)なので気軽に読めると思います。是非~。

 

 

宿屋主人乃気苦労日記。

628,606文字 / 完結済


個性あふれる従業員たちの、重なり合う事情や思惑。和洋の魔術が入り乱れ、剣戟と拳が鎬を削る戦い。そんなさまざまな問題に立ち向かう主人は、そのたびに頭と体を酷使し、なおも前に進んでいく……だが一番の問題は、客の少なさである。 
――それは不思議な宿屋主人の、日々徒然なる気苦労日記。

  • 和洋折衷ファンタジー。様々な闇を抱えた訳アリな従業員達が、生きにくい世の中で、共に支え合い、時には傷付け合いながら、それでも懸命に前を向こうと、生きていこうと頑張る物語。
    • 罪悪感や復讐心を起点とするストーリー展開と、個性豊かな従業員達のどこか面白可笑しい交流。シリアスとコメディがしっかり両立していてバランスが取れている。コメディ部分もちゃんと楽しいのが強いな~と思う。
  • 『何のために生きるのか』というのがおそらくテーマの1つであり、登場人物たちはこの問いに悩み、苦しみ、そして答えを出す。彼らの答えはそれぞれ似てはいるが違っていて、その答えを出すまでの過程の心理描写は見事の一言。この作品のキャラクター達には確かな芯があり、だからこそ彼らの出した結論にはどこか心に響くものがある。
  • 自分が嫌いで、大嫌いで、罪悪感に押しつぶされそうになってしまう彼、彼女らは寄り添い合う。人が誰かを救うなんて驕りだよ、みたいなスタンスをとりながら。でも傍から見ればそれは救済以外の何物でも無くて

「誰も傷つけたくない、とは言うがね、それはどうやっても上手くいきっこないのだよ姫さん。人間、誰しも誰かに迷惑をかけ、傷つけあって生きている。だからと言って動くことを止めれば、周りの人々はそれを気遣きづかって、やはり心が傷つく」

「誰かとつながりを持ったら誰だって責任を持つのさ。それは逃れる必要のない責任だがね。誰だって持っているのだから、それぞれがそれぞれに少しずつ働きかけて、互いに併あわせ持てば良い」
-----十七頁目『押し潰されそうな、自己の罪。(自己不信)』

  • 端書きとして各従業員にifの個別ENDが用意されていたりするのですが、どれも良い感じにメリーバッドエンドで個人的にとても良かったです。本編はきちんとハッピーエンドなのでご安心を。

 

 

明治蒸気幻想パンク・ノスタルヂア

816,811文字 / 完結済


――明治中期、国内最悪の治安を誇る島に住まう主人公・井澄は、異能の術師や傍流の剣士がはばを利かせる中で争いを仕事場に生きている。そして暇さえあれば職場の上司たる少女・八千草に求愛し、すげなく流され、けれどめげずに生きている。……偽史の明治を舞台とした、色恋と刃傷と狂気の沙汰。

  • ファンタジーやらスチームパンクやら色々混ざった架空の明治を舞台にした群像劇、そして骨太ヒューマンドラマ。
    • 先ほど紹介した『宿屋』と同じ作者さんで、こちらも同じく人間模様が素晴らしいです。雰囲気とかノリも大体似たような感じ。
  • なかなか紹介するのが難しい作品なのですが、ざっくり説明してみると『思惑渦巻く派閥争いの中に生きるキャラクター達の話』みたいになる。そしてそのキャラクター達がみんな結構重い過去を持ってたりしてるのですが、それをストーリーに重ねて演出してエンタメ性を持たせる手法がとんでもなく上手いです。なんというかシンプルに読んでいて面白い。
  • 個人的に推していきたいポイントは主人公とヒロインとの関係性。最初は主人公が一途にヒロインに求愛するけど中々振り向いてもらえず……みたいな構図なのですが、物語が進むにつれて隠された記憶があーだこーだして、彼らの関係性は二転三転していきます。このあたりの構造は本当に上手いこと作られていて、先ほどの構図が逆転して、主人公を意識し始めてしまう途轍もなく可愛いヒロインちゃんも見れたりする。クールなボクっ子ロリ上司とかいう属性が強すぎます。
  • そして残りのメインキャラクターに三船兄妹という双子ペアがいるのですが、彼らもまたエモい関係性だったりする。近すぎるが故に、互いを想い合う故にすれ違ってしまったり、片方が兄妹愛を越える愛を抱いてしまったりと色々と不安定で危うい感じが良かった。とにかくバックボーンの積み上げ方が丁寧なので、がっつり感情移入してしまいます。
  • あとは文章が巧いです。『宿屋』の方は若干荒削りな感じがあったのですが、こちらはきちっと洗練されています。作品の雰囲気に合わせたエキゾチックな文体だったり、言葉遊びを交えたルビ振りなど、色々と工夫されていて面白かった。
  • 全80万文字。ヒロインが過去の記憶を取り戻すとこあたりからストーリーが加速していきグッと面白くなります。是非。

 

 

幻想再帰のアリュージョニスト

3,217,346文字 / 連載中


「個人的な好みで言わせてもらえば――悩むくらいなら両方の要素をぶち込んでしまえばいい。収拾がつかないとか辻褄とかバランスとかは気にしないで、滅茶苦茶なくらいが一番面白いと、俺は思う」
ーーー2章15『そんなことよりゲームをしよう』より

  • 個人的になろうで一番好きな作品。そして一番紹介するのが難しい作品でもある。私ではこの作品を説明できそうにないので、とりあえずこういうところが魅力的!みたいな感じで紹介していきたいと思います。
  • まず1つに人工神話企画『ゆらぎの神話』をベースとした設定群、近未来的なサイバーパンク、呪術的なオカルト要素などが絡み合って形成された、独特としか言いようのない禍々しい雰囲気。この重厚な世界観が本当に物凄く、圧倒される。専用wikiもあるくらいで、なんならそれを読むだけでも面白いです。
  • 1・2章の主人公は、そんな世界に転生してしまった一人の男シナモリ・アキラ。言葉も通じない異世界を暴力と感情制御アプリによって何とか生き抜きます。そんな彼の前に二人の姉妹魔女が現れ、そこから物語が始まっていくのですが、この主人公と魔女姉妹の関係性が本当に良くて。重くて脆くて綺麗で面倒でドロドロでコミカルで……いや全然上手く言い表せないんですけど、あの感じがめっちゃ好きです。
  • 前回の記事ではこの作品を『破天荒で荒唐無稽で滅茶苦茶に面白い物語』とざっくり紹介していたのですが本当にこの通りで、なんでもありなカオス空間なんだけど、きちんとあらゆる要素に整合性がとれていて説得力があり、そしてあらゆる文脈はエンターテイメントに昇華され、とにかく読んでいてめちゃくちゃに楽しい。
  • あと、これは人によって好みが分かれそうではありますが、文章がとても綺麗。上記の要素を的確に美しく描写する筆力は本当に凄いなあと感じます。
  • だいたいこんな感じだと思います。正直この作品の魅力の1割も伝えれてる気がしないので、少しでも気になった方は『アリュージョニスト』で検索すれば色んな分かりやすい紹介記事が出てくると思うので是非そちらを。

 

 

現代モノ

現代のストーリーをメインにした作品たち。個人的に疎いジャンルなので3作品しかないですが、どれも良い作品です。何かオススメの現代モノあったら教えてください。

 

銀河の生きもの係

275,421文字 / 完結済


ある日突然、塚原史緒の前に現れた転校生・高遠洸。顔良し、頭良し、スポーツ万能。でも、宇宙からの侵略者(自称)。ほとんど事件の起きない、けれどどこか不思議で不条理な日常の話。

  •  SF風味な王道ボーイミーツガール。女性視点。普通の少女と自称宇宙人という価値観の違いすぎる二人が織り成す、良作ラブコメ。
    • まあSF風味といってもメインキャラの少年が宇宙人っていう設定以外にSF要素は殆ど無いのですが...。
  • ストーリーはTHE・少女漫画って感じの王道。テンプレという意味では無く、誰でも楽しめるという意味での王道。小→中→高とダレることなくテンポ良く進んでいくので心地良い。
  • 割と登場人物は多いですが、あくまで焦点は二人に当てられている。その価値観が違いすぎる二人が、ぎゃーぎゃーと喧嘩しながらも少しずつ距離を縮めていく過程が、少しずつ変遷していく関係性がとても良いです。
  • 初期の高遠くんは「だってさ、塚原さんは、僕の、召使みたいなもんだから」みたいなことを真顔で言うヤツなのですが、そんな彼が変わっていく過程もまた良いんです。プライドが高くて頑固な彼が史緒に好かれたいがために変わっていく過程がね本当に…。
  • 割とやれやれ系な史緒さんが気づかぬうちに高遠くんに絆されていくのもまた良いです。ふとした瞬間の好意の自覚とか、もう萌え転げてしまいますね。
  • なろうの恋愛モノは癖のある作品が多いイメージですが、こういう直球ドストレートな恋愛作品もたまには如何でしょうか。

 

 

きみは小さな居候

366,703文字 / 連載中


久し振りに訪れた父方の田舎。そこで、座敷わらしを目撃してしまった主人公。ちょっと世話を焼いたら、見た目、小学校低学年女児な座敷わらしに妙に懐かれてしまい……。

  • 大学生の男と座敷わらし少女の、ほのぼの日常モノ
    • なのだけども、この作品はただの日常作品とは一味違う。実際に読んでみると分かるのだけど、作中のヒューマンドラマが存外しっかりしている、というかとても良いのである。思わず心が温かくなるような人情話こそがこの作品の真価だと思います。登場人物がもうみんな良い人すぎて本当に読み心地が良い。癒される。
  • 本家レビューでちゃと氏がこの作品を『幼少期に当たり前に感じていた当たり前と不思議の壁をふわふわと行き来するファンタジー』と例えていらっしゃるのですが、これが本当にこの作品の雰囲気を上手く捉えた一文で、ふと幼少期の原風景を思い起こさせるような何かが、この作品にはあると思うのです。もし主題歌を決めるなら『やさしさに包まれたなら』とかが合いそう。
  • 勿論彼ら二人のゆる~い日常描写も中々に良くて、特に心に残ったのがこのシーン。二人でのんびり散歩してる時の一コマ。

それまで真理は、東京の街なかに自然なんかないと思っていた。
街路樹の根本に咲く、タンポポの花に目を留めることなど、今までなかったのだ。
わらしが「春が来たね」と笑って、真理は初めて春を実感したのだ。
< わらしとカッパと夏の空 1話 >

  • こういう何気ない気づき、みたいなことに焦点を当てるのが上手いなあ~と読んでいて何度も感じました。
  • 3章まで完結していて、今は4章を連載中。(2017/12/23)
  • 章毎に完結する構成(それぞれシーズン1、シーズン2みたいな感じ)なので、まずは1章だけでも気軽に読んでみてほしい一作です。

 

 

僕とぼっちな彼女達

341,913文字 / 完結済


みんな大好き、可愛いけどぼっちな女の子を次々落としていく王道ラブストーリー。

  • 正直あらすじ詐欺みたいなところはあります。
  • 実際の話の軸は、小学5年生の純心少年だった主人公がみたきちゃん係(知的障害の少女・谷串三滝を世話する係)になって、周囲の人間の『汚さ』を目の当たりにし、絶望し、だんだんと性格が拗れていって...というもの。
  • それから2年間彼はみたきちゃんと接して絆を深めていく訳ですが、差別偏見の目で見られる日々や、周囲の人間の汚さを目にすることにより荒んでしまい、次第に『ただ、純粋そのもの』であるみたきちゃんに惹かれていきます。そしていつしか彼はみたきちゃんに依存するようになり、彼女と「お医者さんごっこ」をするような関係性になってしまう。この辺の主人公の自己嫌悪の心理描写がかなりエグくて良い
  • 中学生編からは新しく色々なぼっちヒロインが登場します(中二病・引きこもり・円光少女・いじめられっこ)。他人を救うことで自己嫌悪を紛らわそうとした主人公は積極的に彼女らと関わり、ラブコメしたり、救ったり、救われたり、感謝されたり、軽蔑されたりする。まあ大体主人公が(精神的に)痛い目を見て終わる。そしてみたきちゃんに慰めてもらう。そしてみたきちゃんを便利な女扱いしている自分に自己嫌悪。以下ループ。
  • こうして文字に起こしてみるとクソどうしようもない主人公に見えますが、でも彼は、物語中において、ただただ必死に生きている。生きにくい世の中で必死に足掻いているこの主人公の台詞は、とにかく心に突き刺さる。リアルで、質感がある。
  • 正直ラブコメというよりは、これは『主人公の成長物語』なんだと思います。基本一人称で進みますし、なにより真に迫った心理描写が素晴らしく、感情移入せずにはいられない。最終章の彼の懺悔には思わず目頭が熱くなりました。
  • ヒロインズは皆ぼっちなので、まあ色々と問題を抱えている訳なのですが、一応最終的には皆救われます。主人公に寄り掛かって救われるという訳ではなく、主人公に触発されて自分で自分を救っているのが、また良いです。
  • 長くなってしまったので総括すると、良くも悪くも『人間』というものを真摯に描いた作品であるといった感じでしょうか。地雷要素が無さそうなら是非読んでみてほしい一作です。

 

 

どろどろダーク

個人的に大好きなジャンル。どれも思いっきり感情を揺さぶってくる良作です。依存癖、独占欲、承認欲求、ヤンデレ、なんでもどんとこい!って方にオススメ。

 

異世界で魔王になる方法

332,583文字 / 完結済


物語は、『現実』と『異世界』でクロスする。
気が弱くて言いたいことも言えない少女七子。
彼女は図書館で不思議な本を見つける。
この世界から逃げ出したいなら、お手伝いしてあげる――

  • 内向的で臆病な少女がファンタジー世界で様々な経験を経て少しずつ自分の殻を破っていくお話。『マイナスからスタート地点に立つまでの話』とも言えるかと思う。
    • ストーリーラインが複雑で、かつ根幹部分がネタバレ要素になってしまうので中々上手く説明できないのですが、大体そんな感じの話。
  • 作品の軸は大まかに2つあり、まず1つは少女七子がファンタジー世界に魔王として迷い込む話。極端に自己肯定感の低い彼女が異世界で魔王として過ごす内にどう変わっていくのか、というのがテーマ。
    • 異世界において彼女は殆ど活躍をしない。というか魔王らしいことは殆どしない。肩書きだけ。彼女はただ逃げ、迷い、悩む。でもそんな彼女の心理描写をしっかり補完してくれるからこそ、"彼女の葛藤"が作品の魅力に昇華している、みたいなところはある。実際彼女に感情移入しちゃう人は結構いると思います。かくいう私もその一人。

「言葉が通じても、言葉が通じない」「空気は読めるけれど、その空気に上手く迎合できない」「言えないの。怖いんです。私の言葉で、誰かが、嫌な思いをするのが。誰かに不快に思われるのが怖い。どうしようもなく怖いの」

    • このあたりの台詞が刺さる人はハマると思う。
  • もう1つの軸は現世界での話。突然消失した少女七子の謎を暴こうとする過程で、彼女が内向的で自罰的になった理由が徐々に明らかになっていきます。この辺のミステリー要素の完成度もまた魅力の1つ。
  • ただストーリーはかなりキツイ展開も多々あるので、読む際は覚悟が必要かもしれません。いじめの描写等もかなりリアルで生々しく悲惨です。大体作品の8割くらいは暗い話だったりする。
    • でも、だからこそ、ラストシーンの素晴らしさが際立つ。特に彼女の決意の描写は本当に見事で、読後感は信じられない程に良い。
  • 自分よりも他人を慮ってしまいがちな、そんな人に読んでみてほしい一作です。

 

 

ウロボロス・レコード ~円環のオーブニル~

1,409,203文字 / 連載中


「これは永遠に恋をする物語」

  • 不老不死を追い求めるあまり狂気に染まっていく錬金術師が主人公の、異世界悪役ファンタジー。
  • ストーリーの大筋は彼の目的のために必要になる仲間を集めていくというもの。
    • ここでいう仲間とは『人体改造を施し、洗脳して出来た人形』のことを指します。一応自我は残ってはいるものの命令には絶対服従の”仲間達”を侍らせて、彼は異世界で暗躍していく。欲しいものを手に入れるために、極悪非道の限りを尽くしながら。
  • そんなどこからどうみても悪役な主人公に立ちはだかるのは、金で世界を動かす大貴族であったり正義を掲げた勇者達だったりする。そして彼は外道な方法で彼らを屈服させていく。この何の躊躇もなく正義を潰していく様は、むしろ爽快感さえ感じてしまう程。この背徳感と愉悦感。これぞ悪役小説の真髄。

たった一人の男の妄念が、数多の人生を変え、歪め、壊していく。それでもトゥリウスの歩みは止まらない。全ては、彼が焦がれる永遠へと辿り着く為に。

    • この作品の紹介文の煽り文句がまた最高です。
  • で、こんな倫理観とか善悪とかどうでもよくなるほどぶっ壊れてる主人公なんですが、実はかなり合理的な人間で、普通に喜怒哀楽も持っている。ただ優先順位がおかしいだけ。不老不死のみを一心不乱に求める、ある意味芯の通ったキャラではあります。流石に感情移入はできませんが、見ていて面白い主人公だとは思います。あとすごいカリスマ性がある。つくづく珍しいタイプの主人公。
    • またほとんど悪意というものを持たず、ただただ自分のために行動するというのも、キャラ魅力を助長しているのかなあと思う。
  • 主人公に侍る仲間たちについても少し。初めての奴隷であるユニを除いて、彼らは一様に主人に忠誠を誓うべく洗脳されている訳ですが、それと同時にそれぞれ個性的な人体改造も施されていて、この仲間たちもまた皆魅力的なんです。
    • 主人公を妄信している者もいれば、洗脳されてなお嫌悪感を抱きづ付ける者もいたり。正義から悪側に堕ちるキャラなんかもいたりして、その過程の良さはもう筆舌に尽くしがたい。
  • 万人受けする作品とは思いませんが、好きな人はとことん好きになるだろう作品だと思います。2017/12/26日現在、約1年半更新が無い状態ですが、一応キリがいいところで止まっているので問題なく楽しめるかと思います。

 

 

氷の滅慕

1,459,907文字 / 連載中


 少女は血にまみれ、凶刃を振るい、命を搾取する。愛する人のために強さを求めた彼女は、人の域を越えた力を身につけ、精神の惨状へと踏み込んでしまう。

  • 死にかけの少女と美しい女魔族の出会いから物語は始まる。
  • 女魔族の血を得ることで少女は一命を取りとめ、その後数年間を共に過ごすことになる。次第に彼女らは惹かれ合ってゆくが、魔王の介入により二人は離れ離れになってしまう。最愛の人を奪われた少女は絶望し、泣き叫び、魔王への逆襲を誓う。少女は強くなるために戦地に赴き、魔族を食らい、食らい、食らい尽くして、そして狂愛に育まれた怪物が生まれる。
    • あらすじは大体こんな感じ。少女がだんだんと静かに狂っていく過程が良い感じに薄気味悪くて最高です。一見普通のように見えるけど実際には致命的に思考回路がおかしくなっている狂人の描き方が卓越している。特に好きなのがこのシーン。その強い思慕は攻性に転じる......。

「あぁ……白蓮、やっと会えたね」
還元されない愛情。抑圧された想念。――無意識領域下の強い思慕は攻性に転じる。

  • そして特筆すべきはこの『16人の魔王が各地に君臨している世界』という舞台設定。これが実に良い。少女が主人公の物語というよりかは、個性豊かな魔王たち+少女の群像モノという方がしっくりくるくらいに彼らは色々と活躍します。各魔王が本当に魅力的すぎて彼らが会話をするだけで面白いほど。またそれぞれがハチャメチャに強いのも最高です。街一つなら一人で気軽に滅ぼせるレベル。
    • そんなとんでもない魔王達に攫われた最愛の人を取り返すために少女は魔族をたくさん食べて人間をやめていくわけです。
  • ただ強くなるために、何もかもを捨ててしまった少女の物語です。現在第6章連載中。残酷描写・ガールズラブ描写が大丈夫な方ならぜひ読んでみてほしい一作。
  • 最後に自分が昔書いたレビューより少し引用。

自分でも制御できない程の愛で狂ってしまった少女。
最愛の人を奪われた少女は、絶望し、泣き叫び、そして復讐を誓った。

少女は力を得るために血を啜った。
肉を食むたびに心は病んだ。
命を摘むたびに人から外れていった。

これは、常識、倫理、道徳観を失い、愛欲のみが残ってしまった少女の物語。

 

 

インスタント・メサイア

775,927文字 / 完結済


  • 一度読んだら虜になる、麻薬のような作品。
  • 自分の大事な者を全て奪った魔族の下僕となり、彼女らを愛情と狂気で侵食していく男の物語。連れてこられた当初は皆彼をゴミのように扱うのですが、「人は好意を向けられる快楽から逃れられない」と巧みな会話術、身の振り方によって少しずつ彼女らの心の隙間に侵入していきます。
  • 主人公は基本的に道化を演じているので割と掴みどころがなく、心理描写なども結構入るのですが本当に心の底で思っていることは読み取れない。中盤以降は自らも狂気に染まっていき渾沌とした精神状態になってしまったりと、いわゆる信頼できない語り手に類される主人公だと思う。人格も複数あったりして、彼のこのミステリアスで底の知れない雰囲気も作品の魅力の1つだなと感じます。
  • 攻略対象ヒロインは大体5~6人ほど。序盤の一人だけを攻略してるうちはまだ平和なのですが、後半になってくるとそれはもう修羅場大量発生で最高です。腹の探り合い、女同士のガチ喧嘩など、読んでいて思わず息を呑んでしまうほどの緊迫感。

『貴方達みんなね、ズルい目をするようになったわ。どうやってお互いを出し抜こうか、考えてる感じ』
―――<60話『出発の日』より>

    • 主人公がいるときの可愛い少女達が織りなす気の抜けた日常描写と、主人公がいなくなった瞬間に始まる愛憎入り混じるサイコホラーな展開の落差にゾクゾクきます。
  • 現在第2シーズンが連載されており、3月には書籍版も出るとのことです。おめでたい!

 

 

黒の魔王

3,729,347文字 / 連載中


黒乃真央は悪い目つきを気にする男子高校生。彼女はいないがそれなりに友人にも恵まれ平和な高校生活を謳歌していた。しかしある日突然、何の前触れも無く黒乃は所属する文芸部の部室で謎の頭痛に襲われ気絶。次に目覚めた時には……。剣と魔法、モンスターの闊歩するオーソドックスな異世界召喚モノ!

  • 古き良き異世界ダークファンタジー………かと思いきや、蓋を開けてみたらヤンデレヒロイン達が暴れ回っていたでござる、みたいな感じの話。
  • 本筋のストーリーは結構テンプレ風味なので、異世界ファンタジーを読み慣れている方はちょっと退屈に感じるかも。WEB版は文章もかなり冗長な感じなので、バトル描写とかは読み飛ばしても問題無いと思います。ただヒロイン達が本性を現してきたあたりからはストーリーもグッと面白くなってくる。
  • 爆弾を抱えたヤンデレ少女たちの正妻戦争こそが『黒の魔王』の真価。ドロドロの修羅場。少しずつ狂っていく少女達。恋敵を蹴落とし最後に主人公を獲得するのは誰か。作者さんの「ヒロイン同士で殺し合う作品が書きたかった」という言葉にこの作品の全てが集約されている。主人公への愛によって道を踏み外していくヒロイン達は、ただただ魅力的に映る。
  • とにかく作者さんのヒロインに対する情熱が物凄いです。ちょっと長いですが活動報告でなされていたこの主張を読んでみてほしい。

そもそも、ラノベもなろう作品も、あんなにハーレム要素で溢れているのに、ガチの修羅場要素って少なすぎませんか? 需要がないんですか? そうですか。ヒロインは綺麗に描きたい。可愛くありたい。作者としては当然ですが、でも、読者としては、本当にそれを求めているんでしょうか。少なくとも、私はソレだけで不満だったから、黒の魔王があります

愛が足りない。どいつもこいつも、愛がまるで足りていない。すぐ惚れてもいい。チョロくてもいい。でも、一度好きになったのなら、愛を貫けよ。身を引くな。一歩も引くな。死に物狂いで食らいつけ。告白を聞き流されても諦めるなよ。面と向かってフラれても諦めるなよ。そんな簡単に恋敵(ライバル)を許すな、打ち解けるな。この人には勝てない、あの人には敵わない。もっと挑め。正々堂々挑め。奇襲、罠、謀略、策略、何でもいい。全身全霊、全力で挑め。みんな一緒でもいいよ。ふざけんな、そんなワケあるか。許せるはずがない。勝者は常に一人。だから求めろ。絶対に諦めるな。這いつくばって、泥を啜って、血反吐を吐いて。女の子にあるまじき、どんな無様を晒しても、どんなに醜い心を暴かれても。最後の最後まで、追いかけ続けろ。だってお前――ヒロインだろ!!
<第一次ヤンデレ大戦終結|菱影代理の活動報告>

    • 正直これを読んだ時、雷に打たれたような衝撃を覚えた。こんな情熱を持っている作者さんの描くヒロインに、魅力が無いわけが無いんですよね。
  • ただこの第一次ヤンデレ大戦が始まるまでに約200万文字あり、作品最大の山場である第三次ヤンデレ大戦までは350万文字もあるという事実。ここはもう頑張って読んでもらうしかないです。大戦がはじまってからは本当に面白いので...。

 

 

 以上になります。紹介文などは後々書き直すかもしれません。
 皆さんのオススメ作品など、コメントしてくれたら嬉しいです。